「ひよっこ」と「やすらぎの郷」が描いた戦争

2017年度上半期、好評だった連ドラが相次いで終わりました。

NHKの朝ドラ「ひよっこ」と、テレ朝の昼ドラ「やすらぎの郷」。

 

戦後の昭和に青春を過ごした若者たちと、

方や同時代の芸能界に生きた人々の老後を描いたドラマでした。

 

私が、二つのドラマから強烈に感じたのは「反戦」。

それぞれの形で「戦争をしてはならない」と表現していたと思います。

 

「ひよっこ」では、主人公谷田部みね子の叔父・宗男が

いつも必要以上の笑顔で周囲に接する秘密を明かし、

インパール作戦に行っていたことを告白した回がありました。

後に白骨街道と呼ばれたほどの死体の山を築いてしまい、

歴史的な敗北を喫したインド北東部のインパール攻略で戦った、

数少ない生き残りの一人だったのです。

 

現地での凄惨な戦いの中、同年代の敵兵に1対1で遭遇したとき、

死を覚悟した宗男を前にして敵兵はにっこり微笑み、

何事もなかったかのように去っていったという。

あの戦士が忘れられない、あの笑顔に負けたくない、

俺は笑顔で生きていくんだと、いつもは笑顔の宗男が涙ぐんだ。

 

そんな宗男のような戦争体験をした人たちや

それを支えたすべての人たちが焼け野原の街や村を再興したんだと

ドラマは訴えていたようでした。

また、主人公が東京へ出稼ぎに行かざるを得なくなった原因は、 

父親が行方不明になったことでした。

一家の長である父親を探すために上京した母親が、

役人然とした警察官を前に「探してくれ」と切々と訴えた名シーンも、

戦争後の日本国中いたるところで繰り広げられた場面でなかったのかと思います。

あんな思いは金輪際イヤだという魂の訴え。

 

方や、昭和映画界とテレビ界の黄金期を支えた人々が

老後を安寧に過ごせるよう老人ホーム「やすらぎの郷」を創設した

加納英吉が死にゆくシーンで語られた秘話。

その元帝国海軍参謀は、晩年、戦死者の遺骨収集を世界各地で行っていました。

芸能界のドンと呼ばれ、隠然たる勢力を誇り恐れられていた人物が

人知れず費やした歳月の重みと戦争の悲惨さを思わずにはいられませんでした。

 

わたしの母は、1944(昭和19)年の八幡大空襲を経験しており、

いまだに戦争の話は怖がってドラマでさえも見ません。

小学校に上がる前の女の子が防空壕へ逃げ込む暇もなく、

父から畳一枚を立てかけられた側溝で爆撃をしのいだ、

そんなことが昨日のことのように思い出せるからです。

戦争体験者の心の傷が癒える日はないでしょう。

 

 

無論、どちらのドラマも面白可笑しいシーンが盛りだくさんで

毎回あっという間の15分でした。

だからこそ、なおのこと、戦争は脚本家が是が非でも盛り込みたいエピソード

だったのだろうと思います。

 

戦後70年を経てもなお不穏な空気が流れる昨今、

日本人はまたも愚かな過ちを犯してしまうつもりなのか?

と、ペンや映像で突きつけられた気がします。

 

 

おさらいがてら、もう少し感想を。

 

NHKが前作での汚名返上を賭けた「ひよっこ」。

視聴率が低調だの何だのといわれ続けた同作は、

名作と呼ばれ視聴率も高かった「あまちゃん」や「カーネーション」に

引けを取らなかったほど面白かったと思いました。

 

あの手この手で視聴者を引き込む小技が効いていました。

前年の大河ドラマ「真田丸」の名セリフ「各々方、抜かりなく」を

フツーの可愛い主人公に言わせたり、

個性豊かな登場人物がハッチャケたり絡んだり。

さすが「ちゅらさん」など名作を手がけた岡田惠和の脚本だなと。

あまりにキャラ設定が際立つので、スピンオフは

それぞれやってるとキリがないんじゃないか?

それなら「ちゅらさん」みたいにリターンズやってしまう方がいいんじゃないか?

と余計な御世話で思ってしまいます。

 

テレ朝の「やすらぎの郷」は、今季の目玉作品と前宣伝を派手にやってました。

だいたい前評判が高いとコケやすいのが相場ですが、

新しい黄金視聴者層(=シニア)を掘り起こし、

昼帯ドラマとしては上々の視聴率だったようです。

「これじゃ、『やすらげない郷』じゃないか」と揶揄されたほど

これでもかコレデモカと作中問題が勃発してましたしね。

 

そりゃぁ、何でもかんでもタイトルにステーションを付ける局が

万難を排して倉本聰御大を脚本に迎えたんですから、

相応に面白くなけりゃ豪華な俳優陣も参加した甲斐がない。

 

ほんとに豪華キャストでした。

おじいちゃんおばあちゃんがハートを鷲づかみにされて、

放映時間の5分間が被ってしまう「ひよっこ」が

視聴率的に苦戦したのも頷けました。

 

自分たちと同じように年取ってしまった往年のスターたちが、

生活費無料の老人ホームという設定上、お金の心配はしなくても

(おそらく比べようもないのに)行く末を案じ、

相続やら健康やら老いらくの恋に右往左往するんですから。

 

「ひよっこ」にスターとして登場した女優・川本世津子が、

ちょうど「やすらぎの郷」に入居する世代なんですから、

合体したら面白かろうに。なんてね。

 

倉本聰御大は遺言のつもりで書いたそうですが、

どちらも第2シーズンがあれば嬉しいな。

 

「やすらぎの郷」の放映中、無念にも亡くなられた野際陽子さん。どうぞ安らかにお眠りください。